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君の見た世界のすべて

君の見た世界のすべてが真実とは限らない

大人になったら数学が役に立つのかな

5月も終盤に差し掛かり木々の緑が濃くなり始めた頃、少女は教室でいつものようにボーッとした頭で授業を受けていた。
いや、いつもなら本来は夢の中にいるのだが、つい5分ほど前に落ちる夢を見たためか体が痙攣したようにビクゥゥ!となって、机の上の物を辺りに落としたことで、数学の教師が投げたチョークがおでこに当り、中途半端に起きている次第である。
自分が悪いのだが、くだらないことで怒られて余計に授業の内容が頭に入らない。

そんなわけで帰りに買い食いをどこでしようかと思案している最中なのであった。

しかしながら高校生の身の上、親からもらうお小遣いもラスト10日ぐらいだから考えて使わないとである。
授業の三次方程式そっちのけで少女は、自分の財布の所持金を御破算で願いましてはと数え残り日数で割り、昼ごはんはパンと水道の水にすれば乗り切れそうだと喜んだ途端、再度数学教師から放たれたチョークが少女のおでこに当たる。

数分後、短い説教の後に高校生にもなって廊下に立たされる少女。
どの道寝てても起きていても授業に参加しないくらいなら学校などやめて就職すればいいようなものだが、常々親からも大学ぐらいは出ていないと就職戦線のスタートラインにもつけない今のご時世と、お父さんの稼ぎが少なくて家計もギリギリなんだから奨学金が貰えるくらい勉強に励むようにと耳にたこができるくらい聞かされている。

その時はアイドルにでもなって暮らせばいいやと夢のようなことを思ったが、先日、大学の奨学金が打ち切られたネットアイドル的な女子大生がカンパを募ったところ炎上しているのを見たため、それだけは辞めておこうと考えを改めた。

「明日からがんばろう・・・」

と、もう何度目になるのか分からないような決意を心に決めていた少女に、教師から席に戻るようにと声がかかった。

帰りのホームルームで、渋谷の駅で人が刺され、刺した男が逃亡しているから注意をするようにと担任が話していた。
あわせて、先程の授業での出来事を聞かされた担任は、少女にもっとしっかり勉強をするようにと個人的に注意を受けた。
どうやって注意すればいいのか分からないナイフ男より、原因の分かっている少女の勉強に対する姿勢を正されるのはごもっともな話だと、担任にまで説教されている身とは思えない思考を巡らせている。

世の中には理不尽なことで事故に巻き込まれることはあるものだ。

京都では立て続けに車が人の列に突っ込む事故が起きているが、交通事故にしても日々何件も発生している。
死亡事故が減っている現状を伝えないままマスコミは免許を持たない少年と被害にあった家族について報道をし続ける。

そうした不幸な出来事に比べれば、自分の頭が悪いことや、こうして授業ごとに教師から説教を受けるくらいどうということではない。
ようやく担任が次からは気をつけるようにと説教を締めくくったところで少女は

「どうも申し訳ありませんでした」

と日頃言い慣れた謝罪の言葉を口にする。

ちっとも反省していない少女であった。

教師の方も、その少女の言葉を信じられないほど彼女のダメっぷりを知っているのだが、あまりストレスを貯めるのは胃に悪いと医者に控えるよう止められたのを思い出してそれでは今日はこれまでというと教室の何処からか起立!という声が聞こえ、全員が立って先生におじぎをする。

ありふれた学校生活のとある1日が終わり、生徒らは帰りの支度を始めてだした。

その中の一人はいち早く教室を飛び出し、授業中に考えていたクレープ屋へと足を進めた。